好決算の翌日に、株価は約19%下がった
「上半期は増益」という見出しだけでは、今回の値動きを説明できない。 10月29日の決算は取引終了後の16時40分に公表され、翌30日に500円下がった。
| 日付 | 終値 | その時点で起きたこと |
|---|
| 7月30日 | 1,864円 | 取引終了後に好調な4〜6月決算と業績予想の引上げを発表 |
| 7月31日 | 2,264円 | 前日比約21%高 |
| 10月23日 | 2,804円 | 前週末 |
| 10月29日 | 2,688円 | この日の取引終了後に中間決算を発表 |
| 10月30日 | 2,188円 | 前日比18.60%安、前週末比21.97%安 |
30日の取引量は11万6,400株で、直前20営業日の平均の約5.9倍だった。ただし、決算発表前の29日にも株価は下がっている。この日の下落まで、後から公表された決算のせいだとは言い切れない。日次株価・取引量・開示日時
同じ週のNFホールディングスは約2.1%高、日置電機は約2.8%高。どちらも電源や計測で重なる部分がある会社だ。製品や規模は違うものの、菊水の下落を業界全体の弱さだけで説明するのは難しい。NF・日置電機
電気機器を試すための道具で稼ぐ会社
AIやEVが伸びれば自動的に儲かるのではなく、顧客が開発や設備投資を続けることが必要だ。 菊水は、機器に電気を供給する電源や、電池・機器が安全に動くかを試す計測器などを売っている。
上半期売上の約74%は電源機器。半導体、データセンター、車、電池、宇宙産業などの評価試験や製造設備向けに販売している。顧客の投資が続けば追い風になるが、投資の延期や、売れる製品の組合せによって利益は変わる。
直近5年で売上高は約101億円から147億円、純利益は約7億円から16億円へ増えた。上半期も売上は前年同期より約16%増えている。今回の急落だけを見て、成長していない会社と扱うのも違う。事業・上半期実績・5年間の連結実績
売上は増えたのに、7〜9月の利益は減った
気になるのは売上の失速より、売れた後に残る利益が少なくなったことだ。 上半期の数字を3か月ずつに分けると、4〜6月の大きな増益が、7〜9月の減益を覆っていた。
| 期間 | 売上高 | 営業利益 | 売上に対して残った営業利益 |
|---|
| 前年の7〜9月 | 35.43億円 | 5.67億円 | 16.0% |
| 今年の4〜6月 | 38.15億円 | 7.09億円 | 18.6% |
| 今年の7〜9月 | 38.30億円 | 4.61億円 | 12.0% |
7〜9月の売上は前年同期より約8%増えたが、営業利益は約19%減った。商品の販売から得られる利益の割合が下がり、販売や管理にかかる費用も増えている。単に4〜6月との季節の違いだけではなく、前年の同じ時期と比べても採算が低下している。第1四半期短信・中間決算短信
会社は上半期について、海外製品の仕入れや人件費の増加を説明している。ただし、7〜9月の利益減少のうち、どこまでが一時的な費用で、どこまでが売れる製品の変化によるものかは、取得した資料だけでは分からなかった。ここが買う前に知りたい点だ。
減益の一部は、7月の予想からすでに見えていた
「突然悪くなったから下がった」だけで片づけるのも不十分だ。 7月に会社が引き上げた上半期の営業利益予想は12.2億円。その時点で分かっていた4〜6月の7.09億円を引くと、7〜9月は約5.11億円という計算になる。
これは前年の7〜9月より約10%少ない。会社は7〜9月だけの予想を公表したわけではないが、引き算すれば、一定の減益を含む計画だったと分かる。
実際は4.61億円だったので、この逆算した水準をさらに約10%下回った。上半期全体では営業利益が7月予想を約4%下回る一方、純利益はほぼ予想どおりだった。7月の予想修正
それでも株価が大きく動いた背景として、7月30日から10月29日までに約44%上がっていたことは見逃せない。成長への期待が高まったところに、想定より弱い採算が重なった、という見方だ。ただし、発表前の市場予想は確認できておらず、下落理由を断定はしない。
財務と現金の回収には、安心材料がある
利益の減速は気になるが、お金が回らなくなった会社ではなさそうだ。 9月末の現金・預金は約63億円。自己資本比率は80.6%で、資産の多くを自己資本で支えている。
上半期の本業に伴う現金収支は14.22億円のプラスだった。売上の代金を回収できており、直近2年も本業から現金が入っている。一方、この収支には仕入れ代金の支払いが後になる効果も含まれるので、全額が毎期同じように入るとは考えない。現金・財務の出典
在庫は約30.43億円から35.59億円へ増えた。主に製造途中の商品や材料の増加で、完成品の売れ残りだけが増えたわけではない。ただし、今後販売が弱くなった場合は、この在庫を売って回収できるかも確認したい。
財務に余裕があることは、悪い時期を乗り切る支えになる。ただ、利益が減っても株価が下がらない保証にはならない。
約10倍のPERでも、今回は買う決め手が足りない
急落後の価格は検討に値するが、「昔の高値に戻るはず」を買う根拠にはしない。 会社の通期予想は純利益18.1億円、1株利益217.20円。2,188円はその約10.1倍で、PERは株価が1年分の利益の何倍かを表す。
もし利益が前期並みにとどまるなら、前期の1株利益193.38円に対しては約11.3倍になる。過去5年の年度末の実績PERは約8〜13倍だった。実績と予想という違いはあるが、現在の約10倍を、それだけで極端に安いとは言えない。過去の指標
会社予想を達成するには、下半期の営業利益が前年より約5%増えればよい。高成長を無理に続ける計画ではない点は好材料だ。一方、直近の採算低下が続けば、この計画にも未達のリスクがある。
年59円の予想配当による利回りは約2.7%。前年は69円だったが、そこには10円の記念配当が含まれていた。今回の決算で新しく10円の減配を発表した、という話ではない。配当の説明
私の判断は、今回は見送り。財務の強さは評価するが、通常どのくらいの利益を残せる会社か、その利益に対して今の価格にどれだけ余裕があるかを、もう少し絞りたい。仮想運用での購入はゼロとする。
次は、採算が落ちた理由とその後を確かめる
買いを再検討する条件は、日付が来ることではなく、利益の続き方が見えることだ。 会社は中間決算の補足資料を決算後に掲載予定としているが、11月1日に確認した資料一覧では今回分を見つけられなかった。掲載されたら、費用や製品構成の説明を確かめたい。会社の決算資料一覧
- 7〜9月の利益減少は、一時的な費用や売れる製品の変化で説明できるか。
- 売上の伸びに対して、利益も残る状態へ戻っているか。
- 在庫が増えても、販売と代金の回収が追いついているか。
- 追加の説明を踏まえた利益の見積もりに対し、その時の株価は十分に魅力的か。
11月6日は半期報告書の提出予定日で、新しい決算発表日ではない。注記などに追加情報があるかを確認する。次の四半期決算については、今回確認した一次資料では日付を確定できていない。半期報告書の提出予定
待っている間に反発する可能性はある。その場合も、見送りの結果として記録する。反発したから慌てて買うのでも、下がったから自動的に買うのでもなく、新しい情報とその時の価格を比べたい。
※2026年10月30日の終値と、11月1日までに確認した公開資料に基づく。7〜9月の数字は上半期から4〜6月を引いた計算値。表示は丸めている。仮想運用であり、実際の売買記録ではない。
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